下ネタ好き

大勢で会話していて、話題が「下ネタ」になることがある。そんな時、女性のとるべき態度としては、次の二つが挙げられるだろう。
 まず、「何言ってるの?」とばかりに、キョトンとして、会話に入るとも入らないともつかない態度で通す。
 もうひとつは、全ての意味を理解した上で「ふっ、そんなことぐらいで動じないわ。」と軽く余裕の笑みを浮かべ、聞き流す。
 私は、そのどちらの態度もとることができない。こと会話が「下ネタ」方向に行くと、体がビビッドに反応し、目は見開き、口元は「ムフフフ・・」と言いつつゆるんでしまう。そして、何かもっと面白い下ネタで返さなくては!という強迫観念のようなものが頭の中に渦巻き、あらぬことを口走ってしまう。なので、最近は「下ネタ好きの○○」という変な形容詞がつくようになってしまった。
 しかし、これにはわけがある。
 小学生だった頃、「8時だよ、全員集合!」が爆発的に人気があった。ドリフターズがナンセンスコントを繰り広げる番組であるが、私が一番よく見ていた頃は、ちょうど、メンバーの荒井注が脱退し、代わりに志村けんが入ってきたばかりの頃だった。志村けんが入るまで、ドリフターズの一番人気は、加藤茶だったが、志村が入ったことによって、その人気は二分された。現在では、芸能界の大御所となった志村けんだが、私の中では、いまだに「新参者」というイメージのままだ。そんなことはともかく、私は加藤茶が大好きだった。TBS テレビ放送50周年記念盤 8時だヨ ! 全員集合 2005 DVD-BOX (通常版)
 加藤茶は巧みに「下ネタ」を利用した。禿げカツラに丸めがね、チョビ髭の加藤茶が、ネグリジェを着て「ちょっとだけよ、あんたも好きねぇ」というストリッパーの真似は、当時の子供たちに大人気だった。テーマソングの「タブー」が流れると、皆、待ってましたとばかりに拍手喝采した。また「うんこちんちん」というフレーズも、加藤茶は連呼した。だれかが「うんこ」というと、すばやく「ちんちん」と続ける遊びが当時私の周りで流行った。「うんこ」と「ちんちん」という二大スターくっつけた、これは最強のフレーズなのだ。そんな「全員集合」が私は大好きだった。
 そして当然ながら、そんな下品なギャグを連発する番組を、PTAや教育委員会が黙って見てはいなかった。「子供に見せたくない番組」「子供に悪影響を与える番組」等々のレッテルを貼り、何度も問題になった。しかし、その後も番組は長く続いた。
 今、私ははっきりと確信している。この番組は、本当のところ子供に見せてはいけなかったのだ。当時、純粋な子供だった私は、ドリフターズ、なかでも加藤茶の「悪影響」をもろに受け、「下ネタ」にすばやく反応する体になってしまったのだ。親から社会からはめられた下ネタに対する禁忌の呪縛を加藤茶は解き放ってしまったのだ。
 もう十分すぎるほど大人になった現在もその悪影響は続いている。私が悪いのではない。加藤茶が悪いのだ。
 会話が下ネタになって、口元がゆるむ度に、私は心の中で、加藤茶を呪っている。