クリスマスが近くなると思い出す。
あれは、3,4年前だったろうか。私は、実家近くのカトリック教会に両親とともにミサに行った。
ミサが終わったのは、夜10時近く。父は、教会の片づけがあるから、お前達先に帰れ、と言われ、母と私はタクシーで帰ろうとした。
その時、同じミサに出ていた盲目のWさんというおじいさんが、一緒に帰りましょう、と言ってきた。Wさんは同じく盲目の奥さんと夫婦喧嘩をしていて、奥さんは家にいるらしかった。
タクシーの中で、Wさんは、今日はせっかくクリスマスなんだから、どこかレストランでワイン飲みましょうよ、と言った。
Wさんは、私たちを行きつけの店に案内する、と言って、ファミレスの「ジョナサン」に連れて行った。私たちは困惑しつつ、断れずに、一緒にジョナサンに入った。
ジョナサンで、ワインとパスタとポテトフライかなんかを頼んだ。
ワインは軽い赤で、ハーフボトル。Wさんはグビグビ飲んだ。私たちも、ちょっとだけ飲んだ。
さぁー、もっとやってください、と言いつつ、Wさんは何本もワインをお代わりした。
私と母は顔を見合わせて、どうしようか、と思ったが、頃合を見て、そろそろ帰りましょう、と言った。Wさんは、奥さんに対するグチを言い始めた。私たちは黙って聞いていた。
Wさんは盲目である上に、事故で両手の指を全部無くしていて、ワイングラスも両手のひらで抱えるようにして飲んでいた。目もその時の事故で見えなくなったらしい。奥さんは確か指圧師だった。
だいぶ酔っ払ったWさんを抱えるようにして、私と母はタクシーを呼び、帰った。
ファミレスのワインをグビグビ飲むWさんの顔が目に焼き付いている。
その後、Wさんは奥さんと離婚し、一人で老人ホームに入った。が、その老人ホームも飛び出し、今はどこにいるかわからないらしい。