生まれて初めて「文芸春秋」を買った。村上春樹の「ある編集者の生と死」を読むために。
なんというか、一種のピカレスクロマンを読んでいるような気になった。ここまでひどいことをして、それが死後明らかになってしまうというのは、なんとも救いようがない。生きていれば、「盗品売買」で逮捕されようと、出所後、文壇から追放されて、ゴールデン街のスナックの雇われマスターかなんかになって、頭かきつつ、「いやぁ、まぁ、昔いろいろあってさ」と苦笑いできるじゃないか。それで、ほとぼりが冷めた頃、ちょっと言い訳がましい本でも書けるじゃないか。死んじゃったら、永遠に「ダメな人」だ。もっと明らかな犯罪者だったら擁護する人も出てきそうだが、この人(安原顕)のやってることは、あまりにもなさけなさすぎる。よくつらい時に「死んだ方がマシ」と思うことがあるが、そうでもない。生きてた方が幾分マシだ。
ま、これは「あの世」を信じてる者だから言えることかもしれない。死んだ後のことなんて知ったことか、と思えばそれまでだからなー。安原顕もそういう人だったのだろう。多分。
文芸春秋」は、おじいちゃんちのトイレに必ず置いてあり、田舎に帰ると、トイレで読みふけっていた。「同級生交歓」というコーナーが好きだった。「財団法人○○名誉会長」とか「○○大学名誉教授」とかお医者さん(院長)とか政治家(全員おじいさん)が並んでニッカリ笑っている。皆、旧制高校などの同級生で、一様にある程度の名声を得て、そして生き延びてきた人たちだ。このコーナーにステイタスがあるのかどうか知らないが(多分あるのだろう)「どうだ!!」といわんばかりの勝ち誇った笑顔だ。それと似たようなので「うちのヨメ讃」とかいうのも、どこかの雑誌にあった。あれもなんか気になる。